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ハリザッコは命の泉で生まれました。でも、いつの間にか黒く汚れた海に迷い込んでしまっていたのです。ハリザッコは思いました。もう一度あのきれいな命の泉に帰ろう。ハリザッコの旅が始まりました。


by harizakko
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神の国があったとさ

「むかしむかし,この国には花が咲き乱れ,空気もきれいじゃった。おいしい水が湧き  出ていてな,空はどこまでも青く澄んでいた。男衆も女衆もはたらきもんでなあ,幸せに暮らしていたもんじゃ。」
「おじいちゃん,それで?」
「うむ,この国にはの神様が5人いての,アドル,ドーパ,ノルア,セロト,そして一番上の神がブレインという名前じゃった。」
「どうしてそんなに神様がいたの?」
「それぞれ役目を持っていたのじゃ,喜びや幸せの神ドーパ,意欲の神ノルア,
落ちつきの神セロト,戦いの神アドル,は国に住む者たちの感情を受け持っていたのじゃな。うれしいことがあると喜びの神ドーパがやってきてそれはそれは幸せな気分になったものよ。もちろん,悲しいときにはノルアがやって来て大粒の涙を流させてくれたもんじゃて」
ところがじゃ・・
話しをしていた老人は急に曇った顔をして子どもの方を向いた。
「どうなったの」
「あるとき,一番上の神ブレインが,よそもんの神をこの国に招いたのじゃ」
ブレインは4人の神を前にこう言った。
「4人の神よ,本当にごくろうである。今度,新しい神が手伝いをしてくれることになった。みんなも少しは楽になることだろう。」
新しい神は優秀であった。4人の神がやっていた仕事を一人で,やるだけの能力があった。
まじめだった4人の神は次第になまけものになっていった。
新しい神は国の者たちにうまくとけこみ,人気も得ていったのじゃ。
うれしいとき,悲しいとき,つらいとき,いらいらしたとき,新しい神がいつでも進むべき道を示してくれたのじゃ」
「おじいちゃん,みんなが幸せだったらそれでいいんじゃない?」
「しあわせじゃと?」老人は急にわなわなと怒りに震え始めた。
「あいつがなぜ,そんなにすごい能力があったかというとな・・あいつはこの国の命を少しずつ奪っておったのじゃ。この国のすべての人間の,全ての動物の,全ての植物の命を少しずつ奪っておったのじゃ」
老人は,空を指さした。
「見ろ,あの空を,いまではすっかり曇っておるじゃろ,そこの花を見るがいい,しおれて元気がないじゃろ。この国はだまされておったのじゃ」

「おじいちゃん,どうしよう!」
「心配しなくともよい。ブレインが自分の間違いに気付いて,よその神を追い出したのじゃ。」
「じゃ,もうだいじょうぶだね」
「ああ,だが,ほんとうにもとどおりになるにはもう少しかかるかの」
そう言って老人は子どもの頭をなでながらにっこりと笑った。
by harizakko | 2005-12-09 21:59 | 短編小説