ハリザッコは命の泉で生まれました。でも、いつの間にか黒く汚れた海に迷い込んでしまっていたのです。ハリザッコは思いました。もう一度あのきれいな命の泉に帰ろう。ハリザッコの旅が始まりました。


by harizakko
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死ねない男

酒に酔うと誰とでも意気投合し,話し相手になってしまう。
この日もそうだった。ある男と話しが弾んでいたのだ。いや,面識もない他人の男とこうやって親しくなれるのは酒の力なのだろう。
しかし,たわいない日常のニュースや政治の話しをしているときはよかったが,その男が突然,深刻な話しを始めたもんだから,酒がさめていきそうだった。
「何もかも,いやになってね。死のうと思ったんですよ。」
「はあ,何でまたそんなことを・・。」
「会社でミスをしましてね。それ以来,上司が嫌みを言ってくるようになったんですよ。仲がよかった同僚まで変な目で自分を見ているような気がしてね・・。」
「私もサラリーマンしてますが,いろいろありますって・・。」
「なぐさめてくれんでもいいです。それで,わたしゃ首をつろうとロープを梁にかけたんですが,・・。」
「・・・・・・。」
「ブチっと切れましてね。死ねなかったんですよ。」
「はあ・・。」
「その後,飛び降りをしようと,あるビルの屋上に上がったんです。」
「・・・・・・。」
「そしたら,今にも飛び降りようとしている女がいましてね。」
「・・・・・・」
「ばかな事をするんじゃない。死んでどうなるって叫んでしまいましたよ」
(おいおい,死にたくて屋上にいったんだろ,いっしょに死ねよ)
「それから,いろいろ試したけどどの自殺方法も失敗してね。フーッ」
男は大きなため息をした。
そして,一度頭を垂れたかと思うと,頭を上げ上目でこう言った。
「タバコありますか?」
「ああ,あるよ。セボンスターでいいかい?」
ポケットからタバコを取り出したとき,後ろを歩いていた従業員が何かにつまづいたのか
私のほうにたおれてきた。私のたばこは従業員の持っていた水がかかって吸えなくなってしまったのだ。
「すみません,すみません」その従業員は何度もあやまった。
わたしといっしょの男は驚きもせずに
「やっぱり,そうか」とつぶやいた。
「いや,それは,わたしがタバコをねだったからです。」
何を言っているのか分からなかったが,実はこういうことだ。
男がタバコを吸いたくて自動販売機にいけば,故障中になっているし,コンビニにいけば,定休日,同僚からもらおうとするときのうから禁煙だとか言われてタバコが吸えなかったらしいのだ。
 「タバコが吸えないんですよ・・」そういってさみしそうに笑った。


※喫煙はスローな自殺です
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by harizakko | 2006-01-07 07:02 | 短編小説